"枯れた技術"を活用した自動運転レベル4。産総研が取り組む自動運転移動サービスは自動運転の社会実装につながるのか?【AD/ADASの現状をおさらいする Vol. 5】
2021年度にレベル3自動運転車両で始まった実証実験は2023年5月にレベル4での運用へと移行した。自転車・歩行者と共有する自動運転車専用道には、路面に電磁誘導マーカーを埋設して対応。運用車両からLiDARを取り外し、"枯れた"技術に頼った不思議なレベル4になった。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO) FIGURE:産業技術総合研究所
<シリーズ記事 INDEX>
Vol.1|生成AIを活用して完全自動運転の実現に挑戦するチューリング
Vol.2|世界初の自動運転用オープンソースソフトウェア「Autoware」で自動運転技術を変えるティアフォー
Vol.3|自動運転における"魔の10秒"。システム破綻から受け渡しまでのリスクについて、電動モビリティ専門職大学の古川 修教授に訊く
Vol.4|AD/ADASに存在する"空白領域"|神奈川工科大学の井上秀雄教授に訊く
Vol.5|枯れた技術"を活用した自動運転レベル4。産総研が取り組む自動運転移動サービスは自動運転の社会実装につながるのか?
専用道を利用するレベル4の自動運転
国立研究開発法人・産業技術総合研究所(産総研)は2018年から福井県永平寺町で「専用道を利用したラストワンマイル自動走行を社会実装するための実証プロジェクト」を行なっている。当初は3年間の予定だったが5年間に延長され、現在は永平寺町が運営する株式会社ZENコネクトが運行主体である。
2023年5月にはそれまでのレベル3からレベル4へと移行した。走行するのは、もともと越前鉄道永平寺線の線路に使用されていたルートだ。同線が2回の鉄道事故で廃線になり、線路が撤去された跡は歩行者・自転車のための遊歩道になっていた。自動車が入ってこないため自動運転車両の運行に向いている。遠隔ドライバーによるレベル3自動運転車両の実証実験が2018年11月に始まり、現在は3台の車両で運用されている。
LiDARやGPSの代わりに電磁誘導線
レベル3の時代は車両にLiDAR、GPS受信機、カメラを装着して自律走行していた。遠隔監視室には緊急時に運転を代わるためのステアリングホイール、アクセル、ブレーキがあった。これがレベル4になり、遠隔監視室のステアリングホイール、アクセル、ブレーキは撤去された。車両からもLiDARやGPSが撤去され、その代わり全走行コースの道路に電磁誘導線を埋設し、この線に沿って「自動走行」する方式に変更された。産総研に理由を尋ねた。
「地形上GPSが使えない。道路上に木々が生い茂り、ところどころ電波が届かない。ランドマークがない。こうした理由から精密地図を作ることができなかった。そのため、枯れた技術ではあるがコースを外れたことをすぐ検知できるよう電磁誘導線を使っている。雪が25cm積もっても車両は電磁誘導線を検知できる。スタッドレスやチェーンを使えばコースを逸脱せずに走ることができる」
レベル4車両にはミリ波レーダー、超音波ソナー、カメラも備わっているが、走行は電磁誘導で行なう。前方に高さ15cm以上の障害物がある場合はミリ波レーダーで検知して自動ブレーキがかかる。人・自転車が前にいる場合、電磁誘導線を使っているのでクルマ側が避けて通ることはできず、人に避けてもらう。そうした場合のコミュニケーション用などのためにカメラを備えている。