自動車が使う化石燃料ぶんのエネルギー量を発電でまかなうことは可能だろうか・中編
牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす vol.8
長くやってりゃ情報ルートと人脈は築ける。
もうかれこれ40年以上、自動車を取材してきたから、
結構なネットワークを持つことができた。
あちこち掘って、あちこち探ったネタを、
私個人の分析と私の価値観でお届けします。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
日本の道を走っているガソリン車をすべてBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)に切り替えても電力は困らない--はたしてこの仮説は正しいのか。前編ではガソリン乗用車の全モデル平均燃費を13.33km/L、BEVの全モデル平均電費を5.25km/kWhと仮定し、このぶんで約1,290億kWh、さらに変電〜送電〜BEV給電までのロスを10%と仮定し、そのロス分を補ってBEVの「駆動」に使われるだろう総電力を1,433億kWh、143.3TWhと仮定した。では、これだけの電力をどうやったら得られるのか。あくまでこの消費量は「仮定」の話だが、目安にはなるだろう。それとも、やはり電気だけでは心細いのだろうか。
現在の日本は、年間の再エネ(再生可能エネルギー)発電量が127.97TWhもある(EIA統計2021年)。全発電量に占める比率では13.4%だ。日本は太陽光発電の設備稼働率が全国平均13%、風力は同20%だ。これは地理的条件でほぼ決まる。2021年の発電量は太陽光88.7TWh(世界第3位)、風力8.96TWh(同24位)、地熱3.02TWh(同10位)、バイオマスおよび廃棄物27.28TWh(同7位)だった。合計で127.96TWhである。
日本のメディアは何かと「日本は再エネで遅れている」とか「地球温暖化は待ったなし」などの常套句を使いたがるが、太陽光発電パネルの設置面積は国土面積比で見ればドイツを抜いている。たかだか平均設備稼働率13%だが、設置は進んだ(これが問題でもあるが)。風力も20%の設備稼働率にすぎないが、急峻な山岳地帯と狭い平野という国土のマイナス面を克服して設置が進んだ。遅れているのは火山国日本の恵まれた資源である地熱だが、長らく観光地が独占してきた天然温泉資源の発電利用も少しずつ始まっている。
日本の道を走るすべてのガソリン車をBEVに置き換えるのに必要な電力の試算は、私の試算で年間143.3TWhだから、「なんだ、再エネを現在の2倍にすればほぼ賄えるじゃないか」と思えてくる。