自動車の「現実」と「しがらみ」 その2・ゼロスタートだったテスラの強み
牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす vol.12
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TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
2003年7月に設立されたテスラ・モータースが最初の市販BEV(バッテリー電気自動車)である「テスラ・ロードスター」の量産を開始したのは2008年2月だった。まだICE(内燃機関)車が99.99%以上を占めていた時代のチャレンジであり、GMが1996年から少量生産を開始した「EV1」の製造打ち切りを発表する直前にテスラ・モータースが誕生したというのも、どこか因縁めいている。その後社名をテスラ・インクへとあらため、太陽光エネルギー蓄電システムも含めたエネルギー企業を目指している。世の中では「テスラは先進的」と言われるが、その背景には「しがらみのなさ」がある。
テスラ・モータースの創業者はふたり。マーティン・エバーハード(Martin Eberhard)とマーク・ターペニング(Marc Tarpenning)である。現CEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスクは資金提供者であり、2008年にCEOに就任した。
エバーハード(エバーハルトのほうが正しいか)はカリフォルニア生まれでイリノイ大学へ進み、電気工学とコンピューターを専攻、ターペニングは同じくカリフォルニア生まれでカリフォルニア大学バークレイ校に進みコンピューター・サイエンスを学んだ。
イーロン・マスクは南アフリカ共和国で生まれ、カナダ生まれの母親を通じてカナダのパスポートを申請、カナダ・オンタリオ州のクイーンズ大学で学んだ後、シリコンバレーのふたつのスタートアップ(新興企業)でのインターンシップを経てスタンフォード大学の博士課程で材料工学を学んだ。
ちなみに、ふたつのスタートアップとは、ウルトラキャパシター(超コンデンサー)とロケットサイエンスの企業であり、のちにテスラとスペースXというふたつの事業に携わったのは彼の興味そのものだったようにも思う。
本人に直接尋ねたわけではなく、あくまで周辺取材での伝聞に過ぎないのだが、イーロン・マスクが取締役に就任した後、彼は取締役会を率いてエバーハードにCEO辞職を要請した。ふたりの創業者は、ロードスターの量産モデルが発売される直前の2008年1月にテスラを去っている。