自動車が使う化石燃料ぶんのエネルギー量を発電でまかなうことは可能だろうか・前編
牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす vol.7
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TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
日本の道を走っている乗用車をすべてBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)に切り替えても電力は困らない--これが本当ならすばらしいことだ。しかし、ここ1〜2年の日本は夏冬の電力需要を乗り切れるかどうかさえ危うい状態だ。ことしの夏も政府からは「無理のない範囲での節電」という要請が出ている。感覚的には「いまの日本の電力事情ではBEVにまわせる電力はごくわずかだろう」と思うが、「簡単にできる」と仰る研究者の方もいる。では「電力だけ」で乗用車利用をまかなうためには、どうすればよいのか。果たしてそれは実現可能なことなのか。計算で考えてみた。
日本の路上を走っているガソリンICE(内燃機関)搭載車をすべてBEVにすると、どれくらいの電力が消費されるのか。コロナ前の2018年(平成30年)、人々の日常生活に「自粛」がなかったときの燃料消費量実績から計算してみた。
1年間のガソリン消費量は5,078万kL。これを7.5L=19.05kWhという前提で電力換算すると約1,290億kWhになる。単位を変えれば129T(テラ)Whだ。7.5L=19.05kWhとは、ガソリンICE車が100kmを走るのに消費するガソリンが平均7.5L、つまり燃費13.33km/Lで、BEVが100km走行するときに消費する電力の平均が19.05kWh、つまり電費5.25km/kWhという前提での計算だ。
日本の道を走っているICE車の平均燃費を推定することは、実際にはほぼ不可能だ。燃費は走り方や気候条件、道路状況によって変わる。あるOEM(自動車メーカー)は5.5L=21.2kWhで計算した。18.18km/Lがガソリン車の平均、4.72km/kWhがBEVの平均という計算だ。