自動車が使う化石燃料ぶんのエネルギー量を発電でまかなうことは可能だろうか・後編
牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす vol.9
長くやってりゃ情報ルートと人脈は築ける。
もうかれこれ40年以上、自動車を取材してきたから、
結構なネットワークを持つことができた。
あちこち掘って、あちこち探ったネタを、
私個人の分析と私の価値観でお届けします。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
日本の道を走っているガソリン車をすべてBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)に切り替えるのに必要な電力を、私は1,433億kWh、143.3T(テラ)Whと仮定した。1,433億kWhを365日で割ると約3億9268万kWhになる。これを24時間で割ると1,636万kWhになる。1時間あたりにすると、1,636万kWhを「追加でください」という要求は、そうむつかしくはない数字に思える。現在でも、日本での再生可能エネルギーによる発電量は年間127.97TWhもある(EIA統計2021年)。1日当たり3.5億kWh、1時間当たり1,460万kWhだ。再エネ発電をいまの約2倍にすれば賄える計算だ。しかし、どうやって?
太陽光や風力など再生可能エネルギーを使う発電設備と定置型の蓄電池を組み合わせれば、再エネが不足するときでも心配ない--こう力説する人たちがいる。電気は溜めておくことがむつかしい。LIB(リチウムイオン2次電池)のような高性能蓄電池=バッテリーに貯めておけば、2〜3週間はそれほど目減りせずに利用できる。「蓄電池の価格が安くなってきたから、定置型バッテリーは充分に現実的」とも言われている。
しかし、BEV用のLIBは、安くなったとはいえ、BEV車両価格の約半分を占める。とくにNMC(ニッケル/マンガン/コバルト)系のLIBは高い。ブルームバーグNEFによると、2022年のLIB価格は1kWh=151ドル。1ドル=130円で計算しても1万9,630円だ。50kWhのLIBを積むBEVでは電池本体コストが98万1,500円になる。
これは単純にナマの「電池セル」当たりの値段であり、車載状態では配線、冷却装置、制御装置、丈夫なケースなどが必要であり、50kWhでは約200万円とも言われる。OEM(自動車メーカー)はLIB調達コストは公表していないが、私が調べたかぎり、だいたいこのくらいの値段である。