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アメリカ人ジャーナリストと話したこと

牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす vol.16

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アメリカ人ジャーナリストと話したこと

長くやってりゃ情報ルートと人脈は築ける。
もうかれこれ40年以上、自動車を取材してきたから、
結構なネットワークを持つことができた。
あちこち掘って、あちこち探ったネタを、
私個人の分析と私の価値観でお届けします。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)

TMS(東京モーターショー)からJMS(ジャパン・モビリティ・ショー)へと改名した日本最大の自動車イベントは、10月28日から11月5日まで一般公開され111万人の来場を集めた。日系OEM(自動車メーカー)とサプライヤーは申し合わせたかのようにICE(内燃機関)や変速機を出展せず、いまひとつリアリティのない未来風展示が多かった。予想はしていたものの、その現実を目の当たりにすると「本当にこれで正解なのだろうか」と心配になる。私以上に心配していたのは、中国、韓国、アメリカからやってきた私の友人たちだった。彼らは「日本がもっとも科学的なのに……」と言った。

本コラム執筆が1か月も間が空いてしまった。読者の皆さんにはお詫び申し上げます。大変失礼いたしました。 

また、JMSで私の「Topperツアー」を開催した。ご参加いただいた方には心よりお礼を申し上げます。

ツアーの前後に、いつものようにショー取材をした。久しぶりにお会いする方々、初めてお会いする方々と情報交換をした。海外からいらしたジャーナリストや研究者の方々とも会った。話し込んだり食事をしたり、いつもと同じ時間を過ごした。報道公開日以降も、都合4日間、会場へでかけた。

そしてJMSの最中から「Motor Fan Illustrated」にかかりっきりになり、終わったかと思えば毎年恒例の「エンジンデータブック」のお手伝いをし、なぜかかかわっているオーディオ雑誌「ステレオ時代」(この出版社から発行しています)の仕事をしながら、合間を縫ってこのコラムを書いている。

遅ればせながらコロナにもかかった。咳や下痢はなかったが熱は39.3度まで上がった。その間も自室で原稿を書いていた。治癒後の味覚障害はないが、ひとつだけ、葉巻の煙がまずくなった。

その葉巻。友人のアメリカ人に「JMSへ行くから用意しておいてね」と頼まれたキューバ産は、日本ではめっきり品薄になった。中国に買い負けているのだ。キューバ葉巻の元締めはスペインのハバノスという会社で、キューバから輸出された葉巻はまずスペインに運ばれる。ここから地域ごとの代理店に出荷されるのだが、アジアの代理店は香港にある。

いっぽう、キューバと国交のないアメリカにはキューバ産葉巻は入って来ない。当局に所持が見つかったら没収される。しかし、ニューヨークやワシントンD.C.の葉巻店にある会員制プライベートロッカーを借りて保湿保管している人たちは、内緒で大量に所持している。

スペイン杉で作られたロッカーの扉には、借り主の名前が書かれたプレートが貼ってある。その名前を見れば、当局の「手入れ」など絶対にないだろうと確信する。議員の名前ばかりなのだ。

アメリカ人ジャーナリストの彼とは、コロナ流行の最中はメールとウェブで連絡を取り合っていた。2001年のニューヨーク・オートショーで初めて会ったので、もう22年の付き合いになる。彼は私(65歳)よりかなり若いが、互いに同じだけ歳をとった。

JMS取材のあとで、そのアメリカの友人とキューバ産葉巻を吸いに出かけた。

「中国の国軒高科はアメリカへの電池工場建設で認可を得た。VW(フォルクスワーゲン)が出資しているからだろう。CATL(寧徳時代新能源科技)の工場は許可されなかった。CATLにだってホンダなどが出資している。IRA(インフレ削除法)には『電池および電池に使われる金属は、アメリカまたはその同盟国で製造されたものであること』という規定がある。これを守らないと補助金はもらえない。しかし、国軒高科はOKなのにCATLがダメな理由は何なのか?」

私はアメリカの友人に尋ねた。彼はこう答えた。

「工場建設の許可は州や郡や市の裁量。工場を建てたからといって補助金対象の電池として認められるかどうかはわからない。フォードはCATLからライセンスを購入してLFP(リン酸鉄)系電池を生産する計画だが、おそらく2026年までは量産できないだろう。中国企業のアメリカ事業についてコンセンサスを得るのに、あと1年はかかると思う」

なるほど。では電池の量産が始まるまでわからない、ということか。彼は「アメリカのOEM(自動車メーカー)は電池パック工場の建設計画を縮小する。すでにいくつか決まっている」とも言った。実際、この話の3週間後にフォードが計画縮小を発表した。

「アメリカでは来年、大統領選挙がある。政治的には、選挙の結果が出ないかぎりBEV普及策がどうなるかわからない。OEMはすでにBEVへ舵を切っている。だから、いまさらBEVを普及させなくてもいいと言われても困る。ただしBEVからは利益が出ていない。ここに大きな矛盾がある。フォードはBEVの赤字がICE車の利益を食い潰している。GMも苦しい」

著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす

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