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中国人ジャーナリストと話したこと

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中国人ジャーナリストと話したこと
2005年のオート上海。自動車事業に進出して2年目のBYDオートは、早くも概念車(コンセプトカー)を出品した。何の「概念」なのかはまったくわからなかったが、見様見真似でもなんでもいいから自力で自動車を作るという意気込みは感じられた。

長くやってりゃ情報ルートと人脈は築ける。
もうかれこれ40年以上、自動車を取材してきたから、
結構なネットワークを持つことができた。
あちこち掘って、あちこち探ったネタを、
私個人の分析と私の価値観でお届けします。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)

前回はTMS(東京モーターショー)からJMS(ジャパン・モビリティ・ショー)へと改名した日本最大の自動車イベントを取材しに来日した友人のアメリカ人ジャーナリストとの会話を紹介した。今回はいちばん古い付き合いの中国人ジャーナリストとの会話を紹介する。ちょうどBYDオートがレクサスの隣にブースを構え、多くの来場者が中国製のBEV(バッテリー電気自動車)に見入っていた。おそらく初めて見る人のほうが多かったことだろう。これから日本人は、毎日のように中国製BEVを路上で見かけるようになるだろうか。

「モイャ(牧野を中国語で発音するとこういうふうに聞こえる)はBYDオートのクルマに乗ったの?」

中国人ジャーナリストがこう尋ねた。

「乗ったよ」
「どうだった」
「日本車によく似ている。ヒョコヒョコ(これを伝えるのが難しかった)と路面に合わせて揺れたり、リヤの接地感が足りなかったり、気になるところはあるけれど、なかなか良くできている。以前のような飛び出し感もなくなった。その分、ボヤけた印象はあるが、同じセグメントで日本車より100万円安いから、そこそこ売れるように思う」

私はこう答えた。

「駆動制御系はどう思う?」と彼が尋ねてきたので、私はこう答えた。

「駆動力制御プログラムのせいなのか、電池の性能なのか、あるいは熱マネ系なのか、理由はわからないけれど、少しボカシ過ぎだ。中間加速ではゆるいと感じることもあった。BEVらしい蹴り出し、車輪の最初の『ひと転がり』から速度を乗せて行こうというところでの力感がない。大袈裟である必要はなく、適度でいのだけれど、もう少し『走り出すよ』というサインが欲しい」

私の発言に対し彼はこう言った。

「BYDオートは親会社が電池のエキスパートだから電池に頼っている。制御の作り込みはあまり得意じゃない。試乗してみると、BYDオートはBEVよりPHEV(プラグインハイブリッド車)のほうがいい。良くできている。だからBYDのPHEVは売れている。それを見てほかのOEM(自動車メーカー)がPHEVに参入してきた」

2009年のオート上海。BYDオートは「世界初」と謳ったPHEVのカットモデルを展示した。このときから現在に到るまで、同社の事業の中心はPHEVである。ICEの研究・開発を地道に続けてきた。とくにトヨタ「プリウス」のICEを徹底的に研究していた。いまではすっかりBEVメーカーと言われるが、これだけBEVを売っても、PHEVが稼ぎ出す利益には届いていない。
著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

牧野茂雄の「車交箪笥」しゃこうだんす

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