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エンジンテクノロジー超基礎講座122|排気エネルギーで回生:林義正氏のS-ハイブリッド・システム

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エンジンテクノロジー超基礎講座122|排気エネルギーで回生:林義正氏のS-ハイブリッド・システム

捨てている排気を上手に回収することができれば、エネルギー効率は上がる。約30%のエネルギー効率を41%に向上させる技術が、排気の力で発電機を駆動するル・マン24時間用に考えられたハイブリッドシステム。シンプルかつ高効率なのが特徴だ。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) ILLUSTRATION:熊谷敏直(Toshinao KUMAGAI)

仕組みがわかってみれば非常にシンプルだ。「まともな技術は簡単なんです。これは誰もが知っている技術しか使っていません」そう語るのは、東海大学総合科学技術研究所の林義正教授(取材当時)である。

燃焼室の中で燃料が生み出すエネルギーを100とすると、出力として取り出せるのはせいぜい30%程度だ。残りは冷却損失や機械損失として失われてしまう。オットーサイクルの原理上、ピストンを押し下げる役割を果たした排気は、外に逃がさないと次の行程に移れない。つまり、大きなエネルギーを蓄えたガスを、排気管を通じてみすみす大気に放出することになる。この排気損失は大きく、35%に達する。

大気に放出する前の排気にひと働きさせる装置の代表格がターボチャージャーだ。排気流路上にタービンを設けてこれを回転させ、同軸上のコンプレッサーホイールを作動させて吸気を高速で吹き出し、圧力に変換する仕組み。

林教授が考案したのはコンプレッサーの替わりに発電機を設け、圧力ではなく電気エネルギーに変換し、回収する仕組み。「電気は輸送にお金の掛からないエネルギー。だから溜めにくい」ため、バッテリーはあくまでバッファの役割。電気はバッテリーを経由してコントローラーで制御され、モーターを駆動する。動力の混合という意味でハイブリッドの一種だが、現行ハイブリッドが運動エネルギーを電気エネルギーに変換するのに対し、林式ハイブリッドは、エンジンが生む排気エネルギーを常時回生し、電気エネルギーに変換するのが特徴。

排熱回収技術と言えば、ヒートコレクター、ランキンサイクルシステム、熱電変換システムが思い浮かぶ。林式はシンプルかつ低コストで、効率が高そう。なぜいままで気づかなかった?

「視野が狭かったのでしょうね」とひと言。

ル・マン24時間レース用S-ハイブリッド・システム
著者
世良 耕太
テクニカルライター

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめとするモータースポーツの取材に携わる。10年間勤務したあと独立。モータースポーツや自動車のテクノロジーの取材で欧州その他世界を駆け回る。

部品サプライヤー・自動車メーカーのエンジニアへの数多くの取材を通して得たテクノロジーへの理解度の高さがセリングポイント。雑誌、web媒体への寄稿だけでなく、「トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日」(著)「自動車エンジンの技術」(共著)「エイドリアン・ニューウェイHOW TO BUILD A CAR」(監修)などもある。

興味の対象は、クルマだけでなく、F1、建築、ウィスキーなど多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021選考委員。

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