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エンジンテクノロジー超基礎講座088|欧州が過給ダウンサイジングに向かった本当の理由。TSIの生みの親に訊く

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エンジンテクノロジー超基礎講座088|欧州が過給ダウンサイジングに向かった本当の理由。TSIの生みの親に訊く

ヨーロッパのエンジン開発は、いまどうなっているのか。ヨーロッパは「過給ダウンサイジング」へ向かうのか。エンジン・エンジニアとディスカッションをするために、Dr.畑村がドイツを訪ねた。訪問先は、過給ダウンサイジングの総本山、フォルクスワーゲンである。欧州が過給ダウンサイジングに向かう本当の理由を解き明かす。
TEXT:畑村耕一(Dr.Koichi HATAMURA/畑村エンジン研究事務所)
*本記事は2011年10月に執筆したものです

2011年9月の終わりに、フォルクスワーゲンのふるさと、ビートルが生まれたウォルフスブルク市の本社を訪ねた。迎えてくれたのは、TSIエンジンの開発責任者であるヘルマン・ミッデンドルフ博士と、その部下であるガソリン・エンジンの研究者たちだ。会議後のディスカッションで、なぜ今ガソリン・エンジンのダウンサイジングなのかを訊く。先駆者の皆さんの話は興味深かった。

話は、なぜヨーロッパの顧客はディーゼル・エンジンを好むのか、から始まった。ディーゼル・エンジンは燃費がいいから、CO2排出量が少ない(地球にやさしい)からという話になるのかと思ったら、それは当然としても、それ以上に低回転から高トルクを発生するディーゼルの走りが単純に楽しいから、快適だから、だという。確かにディーゼル・エンジンは燃費がいいし、軽油も安かったから、燃料費はガソリンに比べて圧倒的に少ない。ただし、最初の車の価格が高いから、長期間・長距離を走ってやっと元が取れるということで、ディーゼル車は高いから買わないという理由がなくなるだけ。一度、低回転高トルクのディーゼルに乗り慣れると、普通のガソリン車には戻りたくないのが多くのヨーロッパの顧客の感想なのだ。それにCO2が少ないと言う大義名分が後押しをする。

VWが開発するCCS(複合燃焼システム=Combined Combustion System)。トゥーランに積んでテストが行なわれていた。ガソリンとディーゼルの中間とも言える予混合圧縮自己着火する燃焼系だ。
2007年にジャーナリストに試乗用に供された1.6ゴルフGCIは、HCCIでの運転領域は非常に限られていた。実用化はまだ先だが、CGI燃焼は基本的にNOxが少なく高効率だという。GCIのテクノロジーは、ガソリンエンジンをベースにしている。VWによれば、TSIエンジンから左のCCSエンジンへは、1本のラインで繋がっているという。

ここで筆者から、ディーゼルの走りについていくらか解説しておこう。ディーゼル・エンジンはその燃焼形態から、NOxとPM(ほとんどはSoot)(注1)の排出が避けられず、これらはこちらを立てればあちらが立たずと、相反する関係にある。また、リーン燃焼のため三元触媒が使えないのでNOxの浄化が難しい。NOxとPMを同時に低減するための効果的な方法は、燃料をよりたくさんの空気の中で燃やすことであり、排ガス規制の強化に伴って、ディーゼル・エンジンはターボ過給をするしか方法がなかった。各社とも仕方なくコストのかかるターボ過給をして厳しい排ガス規制に適合させた。

そこで、せっかくターボがあるのだから馬力も稼ごうということになり、ディーゼル・エンジニアはガソリン・エンジンを超える高出力を目指し、高回転域の過給圧を上げて回す(注2)と面白いほど出力が高まった。ところが、しばらく回すとそのエンジンはピストンリングがスティックしたり、時にはピストンが溶けてしまうこともあった。ターボチャージャーも高温の排気にさらされて長時間は運転できない。そこで高出力をあきらめて小さなターボチャージャーに代えて運転したところ、今度は面白いように低中速トルクが高くなった。目一杯低速トルクを高めて、それを車に積んで走ってみると、これがまた気持ちよく走る。もともとターボラグの少ない(注3)ディーゼル・エンジンなので、これも幸いした。ガソリン・エンジンのように回転数を高めないでも大きなトルクを使ってよく走る。エンジン回転数が低いので、加速時も静か、エンジン回転が高まることなく加速する気持ちよさをエンジニアは実感した。特に高速道路を走るとエンジン音が静かで快適だった。それまでの高回転まで伸びるフラットトルク信仰が崩壊した瞬間だ。

(注1)NOxとPM
NOx=窒素酸化物は高温高圧になると発生する。一方のPM=パーティキュレートマター(粒子状物質)は、いわゆるsoot(煤)炭素を核として表面に未燃燃料やオイルなどが付着したもの。
(注2)高回転域の過給圧を上げて回す
回転を高めるのではなく、高回転トルクを高めて出力を稼ぐことをいっている。
(注3)ターボラグの少ない
スロットルを使わないので、低負荷でも流量が大きく、ターボが元気よく回っている。

著者
畑村耕一

1975年、東京工業大学修士課程修了、東洋工業(現マツダ)入社。ディーゼルエンジン、パワートレインの振動騒音解析、ミラーサイクルエンジンの量産化、ガソリンエンジンの排ガス対策開発などを手がける。2001年にマツダを退職、自動車関連企業の技術指導を行いながら2002年に畑村エンジン研究事務所設立。2007年からはNEDOの委託研究、助成事業で千葉大学とHCCIの共同研究を実施した。

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