エンジンテクノロジー超基礎講座092|すべり軸受を転がり軸受に置換するとエンジンはどうなるか
自動車用エンジン内部の回転軸部には、すべり軸受が用いられている。これらを低抵抗の転がり軸受にすると、エンジンの効率はさらに向上する。ベアリングのスペシャリスト・NTNの考える次世代について訊いてみた。
*本記事は2013年に執筆したものです。現在とは異なる場合があります。
エンジンは、多くの軸を有している。それらの軸を効率良く回したい。だったら、軸受部にボールベアリングやニードルベアリングといった、転がり軸受を備えればいいと思いつく。実際、エンジン補機類の軸受部には転がり軸受は不可欠だ。では、エンジン内部ではどうか。
容易に想起できる部位としては、クランクシャフトのジャーナル部、コンロッドの大/小端部、カムシャフトのジャーナル部、カムロブの接触部、バランスシャフト。エンジン自体、というくくりで考えると、さほど多くない。そしてご存じのとおり、これらの多くはすべり軸受構造を用いているのである。
「すべり軸受を転がり軸受にすると、回転トルクと起動トルクを著しく下げることができます。そこで、クランクシャフトとコンロッドに転がり軸受を適用するとどれくらいの効果があるのか試算してみたところ、およそ3%という数字を得ました」
そう語るのは、NTNパワートレーン技術部の阿部克史氏である。しかも彼らは実際のエンジンに転がり軸受を装着し、テストも行なっている。結果、1.5%の燃費向上を実現したという。前述の3%という数字との差異があるのは、試算では潤滑系統の高効率化も含めているため。すべり軸受は多量のオイルを要するのに対し、転がり軸受ならばオイルポンプを小容量低トルクにできるし、軸受部でのオイル引きずりも少なくできる。
「実機組み込みではさすがに潤滑系統の見直しまではできませんでした。しかし逆にそれだからこそ、純粋にすべり→転がり化の数字だけを得られたと思います」と、パワートレーン技術部・部長の中野賀泰氏は説明する。つまり、まだ取り代がある。