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エンジンテクノロジー超基礎講座045|エンジン屋の作ったディーゼル:ホンダi-DTEC[N22B]

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エンジンテクノロジー超基礎講座045|エンジン屋の作ったディーゼル:ホンダi-DTEC[N22B]

2004年にホンダが仕立てた2.2ℓディーゼルエンジンはガソリンエンジンのようなフィールが特徴だった。そのキャラクターを維持しながら排ガス性能を向上させたのがi-DTECである。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo) FIGURE:HONDA

2004年に欧州向け「アコード」に搭載されたホンダの第1世ディーゼル・エンジン(DE)は、最大1600barの燃料噴射系とEGRクーラー、酸化触媒、浄化温度特性が異る2つのNOX選択還元触媒(メタル製サブストレートを使用)などを採用していた。シリンダーブロックは鋳鉄ではなくアルミ製だが、当時の話では「ガソリン鋳鉄ブロックの製造設備が不十分で生産技術者が足りなかった点も理由だった」と聞いている。欧州仕様アコードには何度か試乗したが、DEらしくない静かさと中高回転域の伸びが印象的だった。

そして2代目。最大の特徴は新しいNOX触媒の採用である。社内値で米国規制の「Tier2Bin5」をクリアしていたという。06年9月の時点で「3年以内に米国市場に投入」と発表していた(が、結局導入せず)。

ホンダのi-CTDiエンジンのシリンダーブロック
シリンダーブロック(写真はi-CTDI)

通常のHPDC(ハイプレッシャー・ダイキャスト)よりやや低圧でシャーベット状(温度は580°Cあたりだが)のアルミを鋳型に押し込んでクローズドデッキを作る。初代はアッパーブロック高247.1mm、ロワーブロック高75mm、シリンダーオフセット6.5mmだったが、このスペックは変わっていないと思われる。上の写真からもわかるように、シリンダー間は9mmしかない。ヘッドガスケットの面圧を確保するためM13×1.25という大型の塑性域ボルトを使い、しかもダミーヘッドを使ったホーニングまで行なうという凝り様だ。

シリンダーアッパーブロックは、初代同様にホンダ独自のASCT(アドバンスド・セミソリッド・キャスティング・テクノロジー)によるクローズドデッキ構造だ。アルミを半凝固状にして鋳型に充填するレオキャストだが、薄手のリブ部分にも内部欠損が出ないよう、ある程度の高圧(HPDCほどではない)で充填している。クローズドデッキ構造には必須の砂中子は圧力に耐えられるよう改良し、充填率で約15%、抗折力で約20%向上させた。

この製法の難点は、アルミを「スラリー」と呼ばれる半凝固状態にする段階で、合金成分のバラつきやルツボ温度などの外乱に影響されにくくすることだった。ホンダは従来の溶融温度管理に加え、撹拌・冷却する際に動粘度計測を行なって凝固状態を管理することで対応した。一定の「粘り気」が出てきたら撹拌をやめるという、非常に合理的な方法だ。この方法で鋳造したのちに焼き入れ/焼き戻しの熱処理を行なっている。生産技術まで開発して軽量のアルミブロックにこだわるあたりは、まさにホンダの執念と言える。

ボアピッチ94mmでボア85mm、鋳鉄ライナー厚3mmだから、ボア間の肉厚は3mmしかない。標準肉厚は4mm。しかもアルミ製。DEの高い燃焼圧や全負荷時の発熱は大丈夫なのだろうかとも思うが、同排気量の欧州製DEに比べると回転上限は上であり、トルクも馬力も燃費も劣っているどころか同等以上だ。

6.5mmのシリンダーオフセットでピストン側圧は約30%低減。ノイズ&バイブレーションにこだわった設計でありバランサーシャフトも採用している。(写真はi-CTDi)

燃焼室は4弁リエントラント型で初代同様。ボアも同様。ストロークは0.2mm縮め、排気量は一部の国の税制に合わせた2.2ℓ以内に収まった。エンジン搭載方法が前方排気に変更されたが、これは排ガス処理デバイスのためのスペース確保が理由だという。リニア可変スワールコントロールバルブは継承されたが吸気ポート系は少々モディファイされている。バルブタイミングも2~3°の範囲で変わったようだ。圧縮比は初代モデルでも16.7と低かったが、さらに0.4も引き下げられた。DPFも追加されている。

EGRは流量増加のためバタフライバルブを使用している。EGRクーラーの容量をアップし、クーラー不使用時のためにバイパスバルブを新たに設けた。可変ターボは、より低回転域から過給を立ち上げられるよう改良された。

ホンダDEのコンセプトは「DEらしくない、ガソリンエンジンのフィールを味わえるDE」というもので、05年に取材した折りに当時の開発チームは「DEとは思えないエレガントさを狙った」と語っていた。2代目はそれに加え、世界中で厳しくなるDE排ガス規制を、相当先まで読み込んだ設計と言えるのは間違いない。燃焼段階で高い排ガスポテンシャルを得られるよう細部をリファインし、地域ごとの規制には後処理装置で対応するため、その搭載場所を十分に確保している点から、それは伺えた。

ホンダのエンジニアは「いかにもDEです、という低回転域重視のDEでは、後発のホンダは振り向いてもらえない」と言っていた。たしかにそうだろう。技術が高くても商品として訴求できなければいけない。

NOx吸蔵還元触媒の反応

【左】
担体に2層コートされた触媒層は下層がNOx吸着層、上層がNH3(アンモニア)吸着層だ。排ガス中の酸素濃度が高い領域ではNOxを下層に吸着。
【中】
下層にNOxが溜まってくると燃料制御によって瞬間的に濃い空燃比とし、NOxを排ガス中の水素と反応させてアンモニアに転換。それを上層に吸着。
【右】
リーン運転に戻ったとき、上層に吸着されたアンモニアが排ガス中のNOxと反応し無害な窒素に転換される。これを尿素水を使わずに実施するのが特徴。

ホンダが07年のIAA(フランクフルト)で公表した「Tier2Bin5」対応の排ガス後処理システム。酸化触媒でCO/HCを退治したのちにPMを捕集し、最後にNOxを処理する。
著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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