開く
BUSINESS

新規参入のない状態は正常ではない。2030年に日本で「自動車メーカー」になる。|TURINGの市場戦略

チューリング・共同代表/CTO:青木俊介氏

公開日:
更新日:
新規参入のない状態は正常ではない。2030年に日本で「自動車メーカー」になる。|TURINGの市場戦略

チューリング(TURING株式会社)は、生まれてまだ3年のスタートアップである。自動運転技術とBEV(バッテリー電気自動車)を開発している。社名の由来はコンピューター黎明期に活躍したイギリスの数学者、アラン・チューリングだ。アメリカで成功したテスラは交流モーターや変圧器などを発明したニコラ・テスラの名前が社名のルーツ。「向こうがテスラなら、こっちはチューリング」という意気込みである。チューリングの創業者は、初めて人間を破った将棋AIソフトウェアを開発した山本一成氏(CEO)と、米・カーネギーメロン大学で自動運転の研究に携わってきた青木俊介氏(CTO)。掲げるミッションは「テスラを追い越す=We overtake TESLA」である。TOPPERはCTO(最高技術責任者)の青木俊介氏にインタビューした。
(インタビューとまとめ・牧野茂雄)

牧野(以下=M):テスラはすでに「オートパイロット」という装備を市販車に搭載している。とてもオーロパイロットとは呼べない代物だが、消費者は賛同しているし期待もしている。

青木:自動運転のトップは現在、やはりテスラだと思う。トヨタがすごいのはわかるが、テスラのライバルを日本に作らないといけない。創業時にテスラの年表を作った。どこでイーロン・マスクが参加し、トヨタと提携し、トヨタからNUMMI(元はトヨタとGMの合弁車両工場だった)を手に入れ……と書いたときに、では我われが2021年に始めるなら、いまここにいて、東京に拠点を置いて、エンジニアをどれくらいに増やして、クルマを何台売って……というロードマップを描いてみた。我われはテスラを抜こうと思っている。

M:日本は長らく新しいOEM(自動車メーカー)が生まれていない。

青木:そう。それがおかしいと思う。ベトナムに誕生したベトナム資本のビンファストはクルマを作って売り始めた。BEVとしては最悪などと叩かれているけれど、戦っている。戦っているのは偉い。我われも将来クルマを作ると宣言し、自動運転ソフトを搭載したレクサスを1台売った。自動車メーカーとしてやっていくことを内外に示すために、こうしてJMS(ジャパン・モビリティ・ショー)に出展した。たかだか2コマなので自動車メーカーに比べれば小さいものだが、自動車を作るという意思表示だ。

M:日本では半世紀以上も新規参入の空気すらなかった。アメリカにはテスラができたし、BEVスタートアップもたくさん生まれた。経営状態の苦しいところが多いが、ビッグスリーと日本勢、欧州勢だけに自動車市場を独占させないという気概があった。

青木:我われは2030年に日本でBEVを量産したい。当然、国土交通省の型式指定を取る。7年先だが、あと7年しかない。そこでレベル5の自動運転実現をねらう。JMS出品の赤いクルマは、下半分は日産「リーフ」で、意匠は我われが決めた。私は自動運転の人間で、共同創業者の山本CEOはソフトウェアの人間。放っておくと自動運転の研究開発ができる会社になる。自然とそうなってきた。ソフトとクルマを作った会社は日本にはない。

M:アメリカではテスラがソフトウェアとBEVを作った。中国ではNIO(蔚来汽車)などが同じことをした。ただし、ビジネスモデルとしては、テスラは長年CO2クレジット販売でBEV生産・販売の赤字を補填してきた。これは先行のメリットであり、BEVで利益が出たのは最近だ。NIOはいまだに累積赤字を抱えているる。

青木:世界レベルで言うと、日本の家電は潰れた。IT系も弱い。自動車は健在だが、多くの若者が憧れる会社でなくなったのは悲しい。もしテスラが日本に開発拠点を置いたら、おそらくOEMやサプライヤーから人が流れるだろう。テスラで働くことは憧れの対象になり得る。

M:日本の経済界は長年、従業員と家族と持ち家を人質に取ってきた。自動車産業ではOEMの人質がサプライヤーだった。たとえ持ち株比率が小さくてもOEMはサプライヤーをコントロールしてきた。果たしてサプライヤーはチューリングのために動くだろうか。

青木:まったくの門外漢である我われが、日本のサプライヤーの名前も知らないところで事業を立ち上げたが、2年を経たいま、ドアをノックして話ができるところまで来た。OEM経験者を採用することもできた。エンジニア諸氏には志がある。自分の価値を世の中に出したいと考えている人もいる。自分の近くで奇跡を見たくてエンジニアをやっている人も少なくない。チューリングは奇跡の可能性をもっていると自分では思う。奇跡を見たくても、従来の自動車企業ではあまり新しいことができない、やっていることはあまり変わらないという人は少なくないと思う。やりたいと思う人はたくさんいると思う。

M:車両設計能力を持つことも目標か?

青木:テスラはできた。我われも追いかける。設計能力は持ちたいし、日本で量産したいと思っている。日本人は、存在するものを学び、追いかけ、クオリティで世界一になることが上手い。私はアメリカに5年半いたが、アメリカはオリジナリティには強いがクオリティを100に持っていく力は弱い。我われは単純にテスラを追いかけることが2023年時点では最良の戦略だと思っている。

M:日本では政府がスタートアップを支援する体制が脆弱だ。あるにはあるが、選択基準は曖昧だし、政府としての産業戦略がない。

青木:チューリングがちゃんとクルマを作り始めて、日本のBEVに補助金を出せばスタートアップが伸びるということがわかれば、政府も何か施策を打ってくれるかもしれない。そこにも期待している。自動運転にも規制はあるけれど、レベル5が本当にできる、日本の企業がやろうとしていることを見て欲しい。補助しないのなら他の国へ行くよ、ということになれば資金を出すかもしれない。そういう力学が働くのでは、と思っている。

M:その自動運転実現のためのセンサーは国内調達か?

青木:探ってはいるけれど、まだどこということは決めていない。カメラの性能は極めて重要だ。自動運転が盛り上がってきた2008年以降、すでに15年が経っていて、カメラと画像認識系はものすごく進歩した。会社を興すとき、カメラメーカーからいろいろと話を聞いた。

著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としとてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

ジャパンモビリティショー2023:テクノロジーレポート

PICK UP