開く
FEATURES

THK:エネルギー使用を最適化する「可変磁束型」インホイールモーター採用のEV【ジャパンモビリティショー2023】

自動車メーカー以外の企業がつくったEV①:機械要素部品メーカーが仕立てた「クロスオーバー4シータークーペ」

公開日:
更新日:
THK:エネルギー使用を最適化する「可変磁束型」インホイールモーター採用のEV【ジャパンモビリティショー2023】
THKがJMSでワールドプレミアを行ったEVプロトタイプ「LSR-05」は、将来のモビリティへの提案を具現化したものだという。

機械要素部品メーカーのTHKが、ジャパンモビリティショー2023(JMS)でEVのプロトタイプを世界初公開した。同社は機械や装置の「直線運動案内」に、ベアリング同様の球体を使った「ころがり案内」を用いることを考案。1972年に世界で初めて商品化した「LM(Linear Motion)ガイド」は、工作機械などに広く採用されている。また、リンクボールやロッドエンドなどクルマ用サスペンション部品の開発・製造もおこなっている。
[東7ホール 小間番号E7205]

THKは「ころがり案内」を用いた直線運動装置のパイオニアで、「LMガイド」は産業用ロボットや医療機器、半導体製造装置など多くの機械に使用されている。

実走行可能なプロトタイプ

THKの最先端技術を搭載して造られた「LSR-05」は、走行可能なプロトタイプだという。もう1台は既にテスト走行を行っており、その様子がブース内のモニターで紹介されていた。ドアは観音開き構造になっているが、剛性の非常に高そうなセンターピラーを敢えて採用しているところに、いわゆる「ショーカー」との違いが感じられる。

エレガントな「クロスオーバー4シータークーペ」だが、センターピラーを敢えて採用している。
プロトタイプとは言え、すでにテストコースで走行試験も行っているという。

可変磁束モーターでエネルギー効率を最適化

特に注目したのは、リヤに搭載する2基のインホイールモーター(IWM)だ。開発を統括した技術開発部の西出哲弘部長によれば、「エネモ」と呼ぶこのIWMは磁束可変型とすることで高効率を実現しているそうだ。

カットモデルの向かって右側に見える、銅色の部分がインホイールモーターのステーター部分。
写真で見ると、赤い円盤状のパーツの「向こう側」に移動式のローターが収まる。

「THKの“ボールねじスプライン直動システム”を使い、ステーターを動かすことでモーターの磁束を最適化させます。発進時の高トルクと、高速走行時の高回転を両立させています」と説明する。つまり、ステーターをスライドシステムによって抜き差しし、ローターとの距離を状況に応じて変えることでネルギー効率の良いモーター駆動を実現している。

写真の下部、赤いプレートの根元に見える溝のあるパーツがボールねじスプライン。
この直動機構を使って、ステーターを出し入れすることで磁束可変を実現した。

ばね下重量増加という課題の解消

世界中でクルマの電動化が急速に進んでいる現在でも、IWMを採用する量産の自動車は現れていない。最も大きな理由は、ばね下重量の増加による操縦性や乗り心地の悪化という問題だろう。この解決に向けて、THKはアクティブサスペンションシステムを提案する。

THKがIWMの欠点を補うために開発した独自のアクティブサスペンション。

「私たちの提案するアクティブサスペンションは、“ボールねじスプライン構造”の電動サスペンションです。“転がり案内”を使用することで高レスポンスな姿勢制御が可能なことと、油圧や空圧よりも省電力な点がメリットです」と西出氏は説明する。

これを新開発の減衰力可変ダンパーと組合せ、LiDARで検知した前方路面の状況に合わせてアクティブな姿勢制御を行うという。このダンパーは、同社がビルなどに供給している免震装置の技術であるロータリダンパーを応用している。電気を通すことで粘性を瞬時に変えることが可能な「磁性流体」を用いて減衰力を制御する仕組みとのことだ。

アクティブサスペンションにもボールねじが使用されている。磁性流体を使った減衰力可変ダンパーと組合せることで、操縦性や乗り心地の悪化を解消できるという。
「未来のEVに新しい価値を提供することにチャレンジしていきます」とTHKの挑戦について熱く語る西出氏。

デザインコンセプトはダイナミックでエレガント

「クロスオーバー4シータークーペ」とTHKが呼ぶこのクルマ。デザイン開発は、中村史郎氏が率いるSN DESIGN PLATFORM(SNDP)が行った。「スポーティなプロポーションのエクステリアと、ラグジュアリーで快適な移動空間を併せ持った次世代のEV」に仕上げたと中村氏は話す。

中村史郎氏はLSR-05 のテーマを「ラグジュアリーでスポーティなデザインと革新技術の融合」と話す。

都会的で洗練された印象を受ける内外装のデザインだが、特に室内の広さと高級感が印象的だ。THKの得意分野である直線移動を生かし、スライドストロークが大きい「ステルスシートスライドシステム」がリヤシートの「スーパーリラックスモード」を実現した。LMガイドを採用したことでシートレールが露出しておらず、完全にフラットなフロアがすっきりした印象を与えているのも快適な室内空間の演出に役立っているようだ。

リヤシートの「スーパーリラックスモード」は、さらにラグジュアリーで快適な空間をつくり出す。
インテリアのテーマは「モダン&コンフォート」。
「ステルスシートスライドシステム」によって、レールの無いフラットでシンプルなフロアを実現。
直動案内を使用することで、スムーズに大きなストロークのスライドが可能となる。

モビリティ分野に挑戦するTHK

THKの寺町彰博社長は、LSR-05 が「これからの自動車技術のあり方について、THKの考え方を具現化したもの」だと言う。「当社の技術が、クルマの商品価値を高める上でどの様に貢献することができるか?また、それにはどのような性能が求められるのかを実証する為に製作いたしました」と、プロジェクトの目指すところを語った。

THKの次世代モビリティに向けた提案を結集したのがLSR-05 だと言う寺町社長。

その一方で、LSR-05は将来のモビリティに関する提案でもあるという。「このクルマに込められた弊社のご提案が、次世代のモビリティに新たな価値を創造するお手伝いができればと願っております」とのことだ。

Eモビリティ分野への積極的な進出を狙う同社は、今後、これらの先端技術をOEMやサプライヤーに売り込んでいくだろう。LSR-05に対する自動車メーカーや一次・二次サプライヤーの反応が楽しみだ。

直動ではなくRの付いた転がり案内「Rガイド」も産業用ロボットや医療機器などで実績を持つ。
Rガイドを採用した独自のマルチリンクサスペンションによって、IWMを装着しながら後輪操舵も可能にした。
サイドビューモニターを採用。
サイドビューを表示するスクリーンも組み込んだインストルメントパネルは、欧州メーカーのカーブドディスプレイよりも洗練された印象を受ける。

ジャパンモビリティショー2023:テクノロジーレポート

PICK UP