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Out of Kidzania 2023:マツダとホンダの鮮やかな「対照」【ジャパンモビリティショー2023】

ー両社が次世代に伝えたい「ものづくり」とはー

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Out of Kidzania 2023:マツダとホンダの鮮やかな「対照」【ジャパンモビリティショー2023】

4年前の東京モーターショーに初登場した「Out of KidZania」が、装いを新たにしたジャパンモビリティーショー2023に帰ってきた。メキシコ発の子供向け職業体験型施設「キッザニア」とのコラボレーションで、クルマに限らず今回からは「モビリティ」についての仕事が体験できるイベントだ。日本の自動車OEM8社に加え2つの団体がコーナーを設けたが、中でも際だって対照的に見えたのが、マツダとホンダ。子供たちに提供する「体験」に込めた両社の思いを、コーナー担当者への取材で紹介する。
[南4ホール 小間番号KZ07 KZ10]
TEXT&PHOTO:渡邉 生(Sei WATANABE)

マツダの場合 ーこれぞ王道、「かたちの無いところから、ものをつくる喜び」ー

マツダの白黒ツートンの制服を着て体験するのは、「砂型鋳造職人の仕事」。本物の工場を思わせるリアルな現場で、実際に鋳砂を使って造型し、金属を注湯して塑形する。砂落としから方案切断、バリ取りを経て最後は道具の清掃まで、わずか30分の間に鋳造工程のほぼ全てを実体験する。作るのは、厚さ5mm、直径40mmほどの錫(すず)製のメダル。もちろん持ち帰れる。

ブースのしつらえは、床面の色、壁面の配管まで工場のリアルな現場そのもの。後ろの掲示物も、本社工場の実物を持ち込んだ
「製品」のメダルは自作の勲章。37グラムの重さは子供の手にはずしりと感じられることだろう。上は砂型に転写するために使う元の型(模型)

ベテランの説明員は「この現場でのものづくりは、まさに我々の生きざま、そのものなんですよ」と笑う。狙いについて「今のお子さんは、砂をいじったり手を汚して遊ぶ機会が少なくなってますから。でも、実際に現場で手を汚すのが、ものづくりの基本中の基本。その基本があるから、デジタルの時代になっても現代なりの、ものづくりが出来る。それを忘れて欲しくない」と熱く語る。

正面中央に鎮座するのは、マツダが世に送った革命的エンジン、初代SKYACTIVE-Gだ。そのシリンダヘッドの量産時に使用されたものと同じ砂型が、中子も含めすべてお披露目されている
組む前の砂型
アルミのインゴット
組み上げた砂型と、アルミ製シリンダヘッド(加工前の素材)

子供たちの周りには、大きな砂の塊がところ狭しと置かれている。

「このヘッドの砂型も、表面は砂のままなんです」

聞けば、今回最も苦労したのは、広島から東京までこの砂型を崩さずに運ぶことだったという

「表面に透明のコーティングをすれば、きっと砂落ちしたりはしないでしょう。でも、それでは本物の質感が伝わらない」。だから「梱包の仕方もあの手この手をシミュレーションして、やっとのことで最善の案を決めました。箱を開けて無事を確認するまでは、気が気じゃなくて」

開始前の作業台。赤茶の鋳砂(鋳造用の砂)、左下にメダルの形状をした模型が見える。右側の細長いエリアは最後のバリ取り作業用で、台上にヤスリが固定されている。左右奥の白く囲われた四角いコーナー部はゴミ捨て場

作業には一人ずつ専用の作業台が与えられる。一見簡素な作りだが、実はとても良く出来ている。例えば全体のレイアウト。台正面の広いエリアは「砂」を扱うエリア、右手の少し狭いエリアは「金属」を扱うエリアと分かれている。全ての作業を終えて後片付けをする際は、各自、刷毛を使って散らかった微粉(ゴミ)を集めるのだが、砂粒は左奥、金属粉は右奥、それぞれ四角いコーナー部まで掃いてゆけば、メッシュ状の穴から落ちて台の下の回収箱へ。とくに意識をしなくても、自動的に「砂」と「金属」が分別回収される、という仕組みだ(もっとも、全く気にせず混ぜこぜにしちゃってる子もいたが)。こういう細かな工夫は、日々の生産を支える現場ならではの発想だろう。

しかし、このアイディア満載の作業台も決して一朝一夕に出来上がったものではない

「以前から本社工場を中心に、『地域交流会』を通じて子供たちや地域の方にマツダの仕事を知ってもらう活動を、ずっと続けているんです」

左上から右下へ:模型の上に鋳砂を突き固める→丁寧に型抜き→錫の温度は320℃。注湯はプロにお任せ→型割りして砂落とし。まだ熱いのでこれもお任せ。この後、方案を落としてバリ取りをすれば、めでたく完成

ホンダの場合 ーそう来たか!「役立つものへのアイディアを生む楽しさ」ー

ホンダの白い制服を着て体験するのは、「商品の研究開発の仕事」。現行商品の機能・効能を体感するとともに改善点を抽出し、解決法を考えて提案し共有する。ただし対象とする商品はクルマでもバイクでもない、手押し式の除雪機。しかも会場で扱うのはMR(Mixed Reality:複合現実)技術で再現されたCGの雪原と除雪機。最新のバーチャル技術を体験しながら、ホンダの3つめの柱であるパワープロダクツ(PP)の世界に親しみ考えて貰う、というプログラムだ。

VRゴーグルを装着して格子模様のフィールド内で台車を押すと、操作者にはモニター画面のような景色が見える。柵の外のギャラリーやスタッフの顔はそのままの姿で映る。台車を動かすとエンジン音が高まり、止まるとアイドル音まで下がる
同様のフィールドが左右に一つずつ。MRというと専用の特別なスタジオで特殊な機器に囲まれて、という状況を想像しがちだが、このシンプルなシステムはキャノンの技術。開発現場でも徐々に使われ始めているという

「最初、参画の打診が有った時、もし四輪など他部門がやらないのなら、ぜひ我々PP部門がやってみよう、と自ら手を挙げたんです」と、ブース担当者は誇らしげに語る。今回から「モビリティショー」となったことも背中を押した。

「ホンダは『二輪・四輪だけでなく、こんなこともやってるんだ』と知って戴く絶好の機会だと思いました」

展示されているホンダのPP製品。手前左から電動芝刈機、ブレード除雪機「ユキオス」、奥左からロボット芝刈機「Miimo」、電動ブロワ、電動パワーパック「eGX」、電動刈払機。だが事業の屋台骨を支える「汎用エンジン」は置かれていない

そんなホンダPPの掲げるモットーは「役立つ喜び」。ここ数十年間全く変えていない、という。その「役立ち」と「喜び」の両方を多くの人に感じて貰えるよう、除雪体験のプログラムをひと工夫したという。

「冒頭のシーンでは(CGの)おばあさんが『雪が積もって歩けない』と困った顔をしています。そして、お子さんが除雪をした後には、『ありがとう、助かったよ』と感謝を語ってくれます。そんなシーンを加えました」。これによって「子供たちにただ作業して貰うだけでなく、感謝を受ける喜びも感じて貰いたい、それが見ている親御さんたちにも伝われば、もっと嬉しいです」

困っているおばあさんと、感謝するおばあさん。よく見ると、背景に映る会場の天井が青空のCGになっている

画面をよく見ていると、子供たちの作業の仕方にも個性があって、四方にくまなくマシンを進めて除雪する几帳面な子もいれば、えいやとばかりにど真ん中へ切り込んでゆく大胆な子もいる。雪の残り具合も人それぞれだ。そしてその「人それぞれ」は、続くワークショップへと持ち越される。作業して気づいたこと、感じたこと、どこが良くないか、何を変えれば良くなるか。10分にも満たない短い時間の中で、それでも子供たちの発想は柔軟だ。「重かった」に対しては「鉄で作るのをやめて、紙みたいなもの(材料)にすればいい」とか、「小回りが利かない」には「タイヤ(ホイールベース)を短くする」など、ギャラリーを唸らせるアイディアが次々と飛び出していた。

3つの問題点が上がった
ホンダPPは以前から「あなたのラクガキ、Hondaにください」というキャンペーンを実施している。ここでも熱心な子供たちの「ワイガヤ」に、スタッフが耳を傾ける

ものづくりの両輪を示したマツダとホンダ

同じ「ものづくり体験」を狙った両社だが、ものの見事な好対照である。かたや、「現場」と「実物」にこだわって、自分の手で「形あるもの」を作ることを教えたマツダ。かたや、最新の技術を使って「未知の作業」を「想像的に体験」し、そこから自らの「アイディア」を生み出すことを求めたホンダ。もちろん、そこに善し悪しを語るいわれはない。が、今回、たまたまかも知れないが、マツダがものづくりの最終工程である「生産現場の仕事」、ホンダが最上流である「研究開発の仕事」にフォーカスしたことで、各々の仕事の重要さ、大切な部分が、子供たち、そして、見守る大人にも深く伝わったのではないか。

商品開発の上流では、意見やアイディアの多様性が大切だ。ひとと同じことをしても仕方がない。正解は一つではないのだから、多様な見方を吸い上げ、試し、失敗し、再びアイディアを出してやり直すことで、「もの」としての商品は進化してゆく。そのループを高速回転させるためには最先端のデジタル、バーチャル技術が役に立つ。しかし、最後にそれを現実の形にするのは、現場の人の手だ。全く同じ「もの」を数多く作るのは、思うほど容易ではない。目をこらして傷を探し、手を汚して微調整をし、五感を全開にして装置の異常を見抜かなければ、百、千、万の同じ部品は生まれない。デジタルコピーのようにクリックひとつで、とはゆかないのだ。

無数の試行錯誤の末に開発された独創的な商品、それを高い精度・品質と効率で作り続けてきた生産現場。この両輪で、日本のものづくりは世界中から尊敬を集めてきた。マツダも、ホンダも、そしてここに集った全てのOEMも、それは同じだ。そして、あたりまえのことだが、それを支えているのは、人、である。嬉しいことに、どのコーナーでも、子供たちの眼は等しく輝いていた。見ている子供たちからも「あのゴーグルかけるのやってみたい」「私もあのメダル作りたい」という親泣かせの声が飛んでいた(ほとんどの体験は事前予約が必要)。それだけではない。各社どのコーナーの担当の方々も、愉快に、そして、誇らしげに自社の企画への思いを語ってくれた。襷(たすき)は次世代へ確実に渡っている、それを「体験」させてくれた「Out of KidZania」に、感謝である。

ジャパンモビリティショー2023:テクノロジーレポート

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