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「動く家」の最新エネマネ事情:キャンピングカーの熱電供給システム最先端【ジャパンモビリティショー2023】

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「動く家」の最新エネマネ事情:キャンピングカーの熱電供給システム最先端【ジャパンモビリティショー2023】
ANNEX社社独自の熱供給システム(同社Webサイトより)

アフター・コロナの新たなライフスタイルとして、まさに「今が旬」のキャンピングカー。個性的な車輌が目白押しだが、ユーザー層が広がるとともに快適性や利便性の追求でエネルギー需要が増大、それに応える省エネ化、効率化が求められ、ここ数年で車輌のエネルギー・マネージメント(エネマネ)技術が大きく進化しているという。リチウムイオン電池(LIB)の適用が契機とされるが、その適用手法やエネマネ進化の方向性もメーカーによって異なるようだ。今回のショーで東8ホールのキャンピングカーエリアに出展する各社の中から、「動く家」とも呼ばれるキャブコンタイプのキャンピングカー製造メーカー3社のフラッグシップを取材した。
[東8ホール 小間番号OP06]
TEXT&PHOTO:渡邉 生(Sei WATANABE)

変わりつつあるエネルギー事情

「キャブコンタイプ」とはトラックなどの荷台に、車輌メーカーがオリジナルの居室を装備して販売するキャンピングカーをいう。まずはこのタイプの一般的なエネルギー供給についておさらいしておこう。住宅と同様に、必要なエネルギーは電気と熱に大別される。電気は照明のほか、テレビ、エアコン、冷蔵庫、電子レンジなどに、そして熱は暖房、調理、温水に使われる。

電気については、車輌走行用の鉛蓄電池とは別に、サブバッテリーを積むのが一般的で、ここから居住空間で使用する電力を供給する。サブバッテリーには、系統電力(AC100V)からの充電、車輌エンジンの動力による走行充電、加えてルーフ上のソーラーパネルから充電できるものもある。以前は小型の汎用ガソリン発電機を補助電源とする例もあったが、騒音や排気、ガソリンの入手性や保管の手間などから、今では使われなくなってきているという。替わって頼りにされるのが性能向上が著しいリチウムイオン電池(LIB)だが、まだまだ高価で積載可能な容量には限りがある。そのため充電方式、充電速度の選択など最適かつ効率的なバッテリー運用が欠かせない。また、エアコン、電子レンジ用にはAC100V、冷蔵庫、換気扇その他にはDC12Vの供給が必要で、高効率な電力変換もキーとなる。

1日目は往路の走行充電で満充電(NUTS社技術紹介ビデオより)
2日目以降はサブバッテリーの電力を徐々に消費(NUTS社技術紹介ビデオより)

熱については、エンジン排熱や専用ボイラーなどで作られた温水がシャワー、ギャレー(台所)などに供給されるが、台所のコンロで火を使うものは、カセットガスボンベからのガス供給が一般的で、今回取材した各社とも同じ方式だった。かつては、LPGのガスボンベを積むケースも多かったが、キャンプ場での規制、充填の手間、重量過多などの問題や、場合によってはフェリーへの持ち込みが不可とされるなど、取り扱いの面倒さから敬遠されているらしい。

さまざまな機器が快適な居住を支える(各社展示車より)

こだわりの「熱」供給 ーANNEX社 LIBERTY52DBー

徳島県に本社と工場を置く株式会社アネックスは、1980年代から各種のキャンピングカーを製造・販売する老舗メーカー。昨年9月には倉敷市玉島にも工場を新設し、そこで生産する主力商品がこのLIBERTYシリーズである。

同社のエネルギー・マネージメント(エネマネ)思想は明快だ。ニーズに合ったエネルギーを無駄なく使う、いわば「エネルギーの適材適所」である。出発時に蓄えた電力は大切に使い、バッテリーに過剰な充放電負荷を与えない、熱は熱として専用のボイラーで一定温度のクーラントを作り、そこから必要なものへ熱交換する、という考え方だ。

まず電力から見てゆこう。主役であるサブバッテリーは容量240Ahのものを2個、計480Ahの大容量を搭載する。これを従来の鉛蓄電池で賄うと車重が増加し、タイヤのバースト事故に繋がることが懸念された。そこで同社は、車重の軽減とコンパクト化による室内空間の確保を狙い、従来の鉛蓄電池に対し2倍以上のエネルギー密度をもつ三元系LIB(LG社製セル、SEGL社製パック)を採用した。これには車輌エンジンからの走行充電はもちろん、ルーフの250Wのソーラーパネルからの充電も可能だ。

もうひとつの特徴は、系統電力(AC100V)から車輌への給電プラグが二系統あること。一つは通常どの車輌にもあるサブバッテリーの充電用、これに加えてもう一つ、車輌内のエアコン稼働のための専用プラグが用意される。これは、行き先でキャンプサイトの系統電力を電力消費の大きいエアコンと直接ACで繋ぐことで、最大20~30%ともされる交直流・電圧変換の損失を無くすものだ。同じプラグは室内にも設置でき(オプション)ポータブルバッテリーからのAC出力も直接エアコンに供給できる。

右がサブバッテリー用の給電プラグ、左が独自のエアコン直結給電プラグ

続く熱マネージメントの技術は、同社の誇る独自のシステムだ。走行用燃料(軽油)によるFF式ボイラーで、専用クーラントを60℃に昇温して床暖房に使用、さらにプレート式熱交換器で温水と温風を作り、クーラントは循環使用する。これにより、ムラなく室内を暖房でき、静粛性にも優れるという。さらに通常、他社の車輌では温水として使用できるのは20L程度に限られるが、LIBERTYでは80Lのタンク内の水を全て温水にすることもできる。また、これらの利便性を得るために必要な電力は、ポンプ駆動などわずかなもので、サブバッテリーの電力を温存できるという点も重要だ。これらの調整・管理は、車内の専用パネルで一括して行うことができる。

ANNEX社社独自の熱供給システム(同社Webサイトより)
タッチパネル式の制御パネル、空調、床暖房温度、ボイラーの出力調整

「電力」の魔術師 ーNUTS社 BORDER BANKS TYPE-Tー

熱と電気。ANNEX社と対照的な道をゆくのが株式会社ナッツだ。1990年の創業で福岡県に本社を置く国内最大手のキャンピングカーメーカーで、先端技術を次々と搭載するだけでなく、社長自ら日本RV協会会長を務め、RV(レクリエーショナル・ビークル)文化の普及を推進してきた。

同社のキラー技術は、2016年に開発された「脅威の急速充電」を謳う「EVOLUTION」システム。これまで鉛蓄電池を使用していたが、今回のショーではリチウムイオン電池に進化させた最新の「HYPER EVOLUTION」システムを展示した。

従来型「EVOLUTION」は走行充電とバッテリーを独自のユニットで自在に連携する、電力を柱としたエネルギーマネージメントで、アイドリングでもメイン・サブ全てのバッテリーを充電でき、走行時にも家庭用エアコンが連続使用可能、バッテリーをあげてしまっても4~5時間の走行でフル充電できるなど、徹底して電力融通の自由度を高めたシステムだった。

EVOLUTIONシステムの充電イメージ

今回の「HYPER」では、鉛蓄電池に代えて安全性の高いリン酸鉄型リチウムイオン電池(LFP)を採用し、鉛型に比べ重量を約半分としながら、充放電サイクル寿命を350から2,000サイクルまで延伸した。一度電圧を昇圧してから充電することで従来の2.5倍の急速充電時を可能とする一方、充電速度を優先する「ラピード」、劣化を抑止する「ケア」の2モードを選択可能。開発期間2年間をかけた「ハイパーEVOユニット」で、熱暴走や爆発を抑止したという。もちろん、走行充電以外にも、系統電力(AC100V)やソーラーパネル(最大280W)からの充電もできる。バッテリー容量は100Ahを4個で計400Ah、電力出力は1,500W。

最新のハイパーEVOユニット
ユニットは車内リビングのシート下に収納されている

ただし、熱供給はオーソドックスな燃焼式FFヒーター方式で、走行用の燃料(軽油)を使った暖房は温風のみを供給する。温水シャワーはACボイラー(オプション)による。

オーセンティックな制御盤。水タンク温度の表示はアナログの丸型。スイッチ類もあえてメカ接点式にしてある

「熱・電」は全方位で ーVANTECH社 ZIL520ー

最後は、キャブコンタイプの市場で人気ナンバーワンと言われるVANTECH株式会社。埼玉県所沢に本社を置き、車輌販売だけでなく、RVレンタカー事業なども展開し、幅広くRV普及を図っている。

同社のフラッグシップZIL520の特徴は、電気・熱ともに幅広いユーザーのニーズに応えるバランスの良さだろう。

電力供給システム「ILiS」は、ポータブルバッテリーの製造販売で定評のあるEcoFlow社のモジュールに自社ノウハウを活かして開発されたRV向けのシステムで、最大容量4kWhのLFPバッテリーに、走行充電と、2系統合わせて最大739W(480+259)のソーラーパネルからの充電が可能で、そこから取り出すことができる最大出力は、クラス最大の3kW。エネルギーマネジメントをパネルだけでなく、スマホからもできるのも魅力だろう。車内外からリモコン代わりに操作ができる。

ILiS(Intelligent Li-ion battery System)は3kWの大電力を出力できる
ILiSはEcoFlow社との共同開発
ILiSは車内リビングのシート下に収納されている

加えて、熱供給も全方位だ。走行用燃料を用いたFFボイラーによる床暖房と温風、温水シャワーも標準装備。これは1Lあたり8Hrの燃費の良さが自慢である。

モダンな作りのILiSの制御パネル。このパネルとスマートフォンから全ての操作ができる

「動くスマートホーム」の将来は

今回展示されている「動く家」のエネマネについて、筆者は「動くスマートホーム」としてほぼ完成されている、との印象を持った。ここまで快適性を高めつつ、しかも無駄なくエネルギーを使い尽くしている例は、現実の住宅でも少ないのではないか。ここでは取り上げていないが、キャビンの断熱・遮熱についても、各社、技術とコストを割いて工夫をしている。

今後のキャンピングカーのエネマネ進化に対して、各社の説明担当者に尋ねてみた。

「電気・熱ともに、自社の供給システムとしては、ほぼ完成されているので、基本システムを根本的に変えることはないだろう。もちろんバッテリーの小型化や廉価化、ソーラーの性能向上など要素技術の進歩は必ずあるので、積極的に取り込んでゆく」
「全てアナログだった、ひと昔前と違って(エネマネが)デジタル化、統合化して、ブラックボックス化してきている。故障の種類も様々で、サービスする立場としてもソフト・ハード問わず高いスキルが求められる」

ただし、将来おとずれるかも知れない車輌の完全電動化については、

「走行充電ができなくなるのは、商品性上、非常に厳しい」
「走行用以外にも大量のバッテリーを積むことになり、重量アップや価格上昇が心配」
「車載の機器類にも、より省エネ、省電力な技術が求められる」
「ソーラー発電以外にも、何かしら革新的な発電・充電方式が出てきて欲しい」

などの意見が出た。

「もしも(eFUEL、バイオ燃料などの)カーボンニュートラル燃料が使えるならば、キャンピングカーはエンジンで動かすのがいちばん良い。その意味でも、トヨタさんには是非頑張って欲しい」

トヨタは、キャンピングカーメーカーなどに、小型トラック「ダイナ」のエンジン付車台を「カムロード」の名称で1997年から販売しており、現在、国産キャブコンタイプの車輌のほとんどは、この車台を使用しているとされる。トヨタにはカーボンニュートラル燃料の供給網も含め、ぜひとも、この「カムロード」ビジネス全体のカーボンニュートラル化にも取り組んで頂きたいものである。

最後に、ここで取り上げたキャンピングカーはいずれも1,000万円超の高価なものである(もちろん筆者も手が出ない)。余談だが筆者は、つい最近退職した知人が家人から、「一日中家に居るのは勘弁してちょうだい」と言われ、「じゃあ、キャンピングカー暮らしでも始めるか」と言っていたことを思い出した。そんな話をブース担当者に向けてみると「ええ、実際にいらっしゃいます。でも商談を進める間に『どうせ買うなら私も乗って旅に出たい』ってなるケースも多いですよ」とのお答えだった。人生のマネージメントは、必ずしもエネマネより、予想通りにはゆかないようだ。

ジャパンモビリティショー2023:テクノロジーレポート

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