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NSK & ADJ:「タッグで挑む世界の空」GTハイブリッドで空をめざす【ジャパンモビリティショー2023】

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NSK & ADJ:「タッグで挑む世界の空」GTハイブリッドで空をめざす【ジャパンモビリティショー2023】

日本精工株式会社(NSK)のブースの中に置かれた一台のガスタービン(GT)エンジン。エアロディベロップジャパン株式会社(ADJ)との協業で「空飛ぶクルマ」を目指すという。気になる中身を探ってみた。
[西3・4ホール 小間番号W3503]
TEXT&PHOTO:渡邉 生(Sei WATANABE)

「ホンダさんには負けませんよ」

ADJ社代表取締役の田邉敏憲氏はニヤリと笑う。「我々の強みは独自の構造。発電機を含めたコンパクトさでは一歩先を行ってるつもり」と自信を見せる。独自の構造というのは、こうだ。

展示された出力30kWのガスタービンエンジン試作機
太い円筒部が圧縮機と燃焼器であり、当該燃焼器部にタービンが組み込まれ、80,000rpmで回転する。その左の細い部分がガスタービンに 直結した発電機である

「一般のGT発電機は、GTの後段に発電機を別付けするが、それだと全長が長くなる。支持する軸間も伸びて共振が起こる。そこで我々は、タービン部と発電部を一体化してしまった」

キーとなるのは「ハルバッハ配列界磁」を応用した鉄心の無い「コアレス発電方式」だ。残念ながらこの部分の展示は無かったが、説明によると、正方形断面の永久磁石を磁力の向きを変えながら幾つも並べることで、ステーター側だけに強い磁界を発生させることができる。これをネオジム磁石で作ってローターに適用することで、同サイズ、同電圧で約2倍の出力が得られる、という。因みにこの部分は、工学院大学の森下明平教授との共同研究だ。

「発電が高効率ということは、発熱が少ないということ。空冷で成立するため、冷却水や冷却回路も不要で、それも軽量化、コンパクト化に寄与している」

構造の模型。この白い円筒部が、一体型のタービン・発電機。その両端を支えるのが新構造のNSK社製ボールベアリング。その左端の羽根のついた黒い部分がタービン。

そして、文字通りこの「心臓部」を支えるのが、NSK社製のボールベアリングだ。今回のショー向けに、ADJ社向けに新開発した「次世代Jet潤滑方式軸受」を展示した。NSK社では以前から航空宇宙用製品として、航空機、ロケット向けの各種軸受、ボールねじなどを生産してきたが、これはGT向け量産品の潤滑構造に改良を加えたものである。

新潤滑方式の原理と性能。従来品よりも低圧で潤滑が可能、必要な給油量を大幅に減らした。オイルポンプも簡便なもので済むという

NSK社側でプロジェクトを担当する航空宇宙グループ・マネージャーの原和弘氏は、「高温、高回転での動作については、GT向け量産品として、材料、信頼性も含めて実績が有った」と言う。しかし、従来型のGT向けベアリングの潤滑は「とにかく高圧で押し込んで、またそれを強制的に吸い出す、というもの」だったという。ADJ社から協業の申し入れがあったのは2年前。ADJ社は「弊社の既存品を使ってみたが、上手くいかなかった」らしい。そして「何回か話しをしている間に、どうやら、あまり通常はやらない使い方をしているらしい」ことが判ったが、それでもNSK内で、なんとか使用に耐えるものを、と模索する中で今回の仕様に行き着いたという。

「いつも弊社の製品を使って戴いているような大手メーカーさんならば、カタログどおり『ちゃんと使う』術を心得ていらっしゃるんですよ。だから、普通それほど不具合は起こらない。新しい発想を持っていたADJさんだったからこそ、の開発でした」

しかし、そんな短期間で仕上げることが出来たのは「実は以前に一度、似たような構造にトライしたことが有ったから」なのだが、その時は「良いものは出来た。でもニーズが無い」と、社内では不評でお蔵入りしていたのだそうだ。

ボールを保持する2列の外輪と中央部の内輪からなり、羽根車と内輪が中心軸と一体で回転する
内輪のカット断面。中央の縦穴から来たオイルはいったん下の横長の空間に蓄えられた後、遠心力で上部左の噴孔から外輪のボール部に供給される(噴孔は左右互い違いに配置)。中央部(内輪)は左右から2ピースを合わせて構成されるが、「構造を真似ても、同軸度など加工精度はそうそう真似できない。そこがニッポンの底力」(NSK原氏)なのだそうだ
来年には40kW級のGT2基で40kg搭載のドローンで60分間の連続飛行、その後は250kW級のGT2基でハイブリッド型「空飛ぶクルマ」を商品化するのが目標

東京都小金井市に本社を置くADJ社は、2018年の設立以来2020年にGTハイブリッドの動力概念モデルを製作、翌2021年には試作機の浮上試験を成功させ、2022年に今回展示の30kW級動力システムを試作、と動力系を中心に着実にコマを進めてきた。その強みは「NSKさんをはじめ、JAXA、工学院大学など、とにかく、日本の優秀な専門家、メーカー、研究所などの知恵を結集しているところ。CTO(太田豊彦氏)はIHIの出身でロケットエンジンなどの開発経験が豊富、特に今回展示機の緻密な燃料制御は、ハード、ソフトともに世界一と言っていい」(ADJ田邉氏)だそうだ。

さらに「GTが良いのは、多種燃料を使えるところ。今は従来の航空燃料で開発しているが、今後はカーボンニュートラル化を目指して、液体水素での運転にもトライする」という。燃料ポンプはインタンク式を想定していて、ここでも液体ロケットエンジンなどで極低温の実績もあるNSKの技術が活きるはずだ。

「ウチ(NSK)に限らず日本のメーカーには、良い技術が有っても、それを使いこなしてくれる人やメーカーと出会えないもどかしさがある。ADJ社の田邉氏は、まさにそこを突いてきた」(NSK原氏)

「私の役割はプロジェクト・マネージャー。資金調達はもちろん、協業相手、人集めも本職だ。それで、こりゃ組める、組むべきだ、って相手は、直ぐに判るんだよね」(ADJ田邉氏)

今後は欧米も含め、有人・無人の機体メーカーとのアライアンスを積極的に進めてゆく方針だ。

実は、内燃機関によるハイブリッド方式のeVTOLやドローン開発は、日本国内でも数多い。GTのホンダ、ADJのほかに、ロータリーエンジンのIHI、レシプロの石川エナジーリサーチ社などは既に実機試験の段階まで進んでいる。近年とかく旗色の悪い内燃機関とエンジニアだが、自動車業界で磨きぬかれた日本の内燃機関と、それを支える精緻な技術が世界の空へはばたく日も遠くはない。

ジャパンモビリティショー2023:テクノロジーレポート

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