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エンジンテクノロジー超基礎講座053|レースエンジン屋魂で開発した量産V10[トヨタ1LR-GUE/レクサスLFA]

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エンジンテクノロジー超基礎講座053|レースエンジン屋魂で開発した量産V10[トヨタ1LR-GUE/レクサスLFA]

最高回転数9000rpm、ドライサンプ、各気筒独立スロットル…。無類の高性能エンジンを開発するには、レーシングエンジン設計者のフィロソフィーが必要だった。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO:トヨタ自動車/住吉道仁(Michihito SUMIYOSHI)
*本記事は2009年11月に執筆されたものです

開発に携わったエンジニアが手塩にかけて育てたエンジンのことを嬉しそうに話してくれると、話を聞いているこちらもなんだか嬉しい気分になってくる。第41回東京モーターショーでレクサスLFAのエンジンについて説明を受けたときがまさにそうだった。説明してくれたのはヤマハ発動機株式会社AM事業部AM第1技術部設計グループ主務の吉岡伸二氏だ。レクサスLFAが積む1LR-GUE型エンジンは2000年から開発がスタート。トヨタ自動車の監修のもと、ヤマハ発動機が業務委託を受けて基本的な設計開発業務を行なった。その中心人物のひとりが吉岡氏である。

2010年に500台限定で販売を開始するレクサスLFAは、メルセデス・ベンツSLS AMGやマクラーレンMP4-12C、フェラーリ599がライバルとなるような、スーパースポーツカーだ。エンジンは既存のどのユニットとも共通性を持たない専用設計とされた。排気量は4800cc。形式はV型10気筒。車両開発がスタートした時点でV10をフロントミッドに搭載することは決まっていた。吉岡氏は「聞いた話」としてV10に決まった経緯を話す。

「V8では夢がないだろうという話がまずありましたが、振動も問題でした。高回転で回そうと思えばフラットプレーンのクランクシャフトが必然になりますが、それだと二次振動がきつい。振動対策をしていくと重くなりますし、かといってクロスプレーンにすると音がゴロゴロしてしまう。V12も検討しましたが、クランクシャフトのねじり振動がきつくて高回転化に不向き。という背景からV10が素直な解だということになりました。V10といえば当時はダッジ・バイパーしかありませんでしたが、あちらはOHVですので、LFAでやれば斬新さがある。F1とのつながりもありました(トヨタは2002年からF1に参戦。当初は3ℓ・V10を積んでいたが、2006年に規則が変わり、2.4ℓ・V8にスイッチ)。プロジェクトが始まった頃は、次のBMW M5(2004年)がV10で出てくるかもしれないという状況でした」

エアファンネル展示用写真
エアファンネルは展示用の飾り物で、実際は樹脂製一体型のファンネル+10連スロットルが取り付けられる。アッセンブリーはヤマハ発動機本社工場(静岡県磐田市)で行なう。ひとり1台のセル組み立て式。試作の段階から組み立てに携わっているのが強み。重量は200kg+αで同クラスのV8エンジン並みに抑えた。

フロントミッドに搭載するとなると、タイヤ切れ角やサイドフレームと整合性をとる必要が出てくる。エンジンに与えられる幅はおよそ70cm。バンク角60度ではVバンク間に独立スロットルが収まらないし、90度にするとエキゾーストマニフォールドが等長にできなくなる。

「75度くらいが吸排気のバランスがちょうどいいのですが、72度にすると等間隔点火にできるし、搭載性がいい。このエンジンの場合はサウンドへのこだわりもありました。その点、72度が一番いい音がする。どう検討しても72度がベストだという回答が出てきました」

性能目標を達成する狙いとともに、サウンドへのこだわりからも必須だった5-1レイアウトの等長エキマニはステンレス製。チタンやインコネルも検討したが、コストや生産性、耐久性の面から断念した。F1では反射波を生んで排気の引っ張り出し効果を得る拡管(ステップドエキマニ)が一般的。1LR-GUEの開発でも試したという。

5-1レイアウトとしたステンレス製等長エキゾーストマニフォールドの各ブランチは一体成形。チタンやインコネル(ニッケル系合金)も試した。排気のサウンドチューニングは三五が担当。右バンク側には、メインのスカベンジポンプとオイルポンプを装着。左バンク側にシリンダーヘッドとチェーンケースのオイルを吸うサブのスカベンジポンプを取り付けている。

「(開発スタッフに)レース出身の人間が多かったので、当然試しました。F1みたいに1万何千回転も回せばいいのでしょうが、このエンジンの場合はまったく効果ありませんでした」

9000rpmを目標にした1LR-GUEは、量産エンジンとしては無類の高回転ユニットだ。トヨタ自動車エンジンプロジェクト推進室で1LR-GUEの開発を監督するポジションには、モータースポーツ部で腕をふるったエンジニアが就いた。レーシングエンジンの開発で得たノウハウが欠かせないとの考えに基づいている。だから、エキマニの材料にインコネルを検討するし、拡管を「当然」試したのである。

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著者
世良 耕太
テクニカルライター

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめとするモータースポーツの取材に携わる。10年間勤務したあと独立。モータースポーツや自動車のテクノロジーの取材で欧州その他世界を駆け回る。

部品サプライヤー・自動車メーカーのエンジニアへの数多くの取材を通して得たテクノロジーへの理解度の高さがセリングポイント。雑誌、web媒体への寄稿だけでなく、「トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日」(著)「自動車エンジンの技術」(共著)「エイドリアン・ニューウェイHOW TO BUILD A CAR」(監修)などもある。

興味の対象は、クルマだけでなく、F1、建築、ウィスキーなど多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021選考委員。

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