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エンジンテクノロジー超基礎講座034|エンジンマウントの仕組み。揺れをどこでどれだけ抑えるか。

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エンジンテクノロジー超基礎講座034|エンジンマウントの仕組み。揺れをどこでどれだけ抑えるか。

エンジンマウントの役割は「支持」「防振」「制振」の3つだと言われる。しかし、巧妙な仕掛けのマウントは車両運動性能とドライブフィールを確実に向上させる。同時に、エンジン気筒数削減やエンジン構造の簡素化にも貢献する。
TEXT:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)

エンジンマウントの役割は「支持」「防振」「制振」の3点に大別される。良くできたエンジンマウントは、単に振動をボディに伝えないだけでなく車両運動性能や操舵フィールの向上にも寄与する。しかし、日本ではエンジンマウントの重要性が見過ごされてきた。見直しは始まったばかりだ。

マウントにエンジンを搭載した状態のイラスト
マウントにエンジンを搭載した状態。最近の流行である上下2段式のメンバー構造のなかにマウントを配置している。高い位置にある右上マウントはストラットタワー部分にウデを伸ばす。左マウントは低いトランスミッション位置での結合。エンジン内部の回転慣性だけでなく車両運動も配慮した構造。(FIGURE:NISSAN)

上のイラストは、日産のFF系直4エンジン搭載車に採用されているペンデュラム(振り子)マウントだ。V6エンジン横置き用の6点式は、前後マウントとロール慣性主軸上の左右マウントの十字配置に高低差を大きく取ったトルクロッド2本という組み合わせなのに対し、2.5ℓまでの直4エンジン横置きFFモデル用は4点式だ。重たいV6を支える6点式はコストのかかった凝った構造で、しかも前後マウントは負圧切り替え式だったが、4点式は直4エンジンに最適化しコストを抑えながらも効果をねらった構造である。

フロントサイドメンバー上に、車両右側はエンジンブロック上端を、左側はトランスミッションを、パワーユニットの回転軸上で押さえるようマウントを配置し、エンジン/トランスミッションを吊り下げる。この2点では、エンジンブロック下方が、おもに前後に揺れてしまうため、回転軸から離れたサブフレーム位置で下方を1点、トルクロッドで押さえている。これによりエンジンが振り子のように揺れてしまうのを規制している。さらに、右側上部マウントの近傍にトルクロッドを追加して4点留めとし、加減速と左右ロールによるエンジン位置の変化を規制している。3点式よりもコストはかかるが、エンジンシェイクとアイドル振動の両方を低減する工夫が施されている。

エンジンマウントの上側のイラスト
エンジンマウントの上側(FIGURE:NISSAN)

【左写真2点】上はエンジン側。下のボディ側のパーツは金属の塊ではなく防振ゴムを内蔵している。エンジン重量が真上から入る位置であり、サイドメンバーへの固定だけでなくマウントからウデを出してボディインナーの丈夫な部分に留めている。

【右写真】右側上部のトルクロッド。ボディ側は横置き、エンジン側は縦置きの配置。ソリッドマウントはエンジンシェイク(ロスファクター大)とアイドル振動(低バネ)の両立が難しく、設計には勘所がある。

サブフレームとエンジン下側マウント イラスト
サブフレームとエンジン下側マウント/トランスミッションマウント(FIGURE:NISSAN)

【上写真】エンジンブロック下部のトルクロッド。エンジン側のブラケットにウデを延ばして支える構造だが、内部のゴム形状、硬度、厚み、揺れを許容するストロークの設定などはノウハウのかたまりである。
【下写真】左マウントは小さくて薄いが、内部構造は凝っている。上のイラストでオレンジ色に塗られたエンジン側ブラケットとセットになる。丸い台座の下側に、大きく厚く断面が連続変化するゴムがある。

現在、ペンデュラム方式はエンジン横置きFFでの主流のひとつであり、単純にクロスメンバー上の3点もしくは4点のマウントのスパンだけで揺れを抑える従来の方式からはどんどん進化している。エンジン内部にバランサーシャフトを配置して振動を低減する方法との併用で、クルマ全体としての振動・騒音を低減する例もある。今後はエンジンの排気量ダウンサイジングが気筒数の減少を伴って行なわれるようになると予想され、気筒当たり500ccの2気筒、3気筒エンジンで、しかもバランサーシャフトなしというケースは当然出てくるだろう。

その場合には、エンジンマウントに過大な要求が突き付けられる。日本車の場合、マウントは「柔らかく」「とにかくカドまる」という設計が見受けられるが、これからのダウンサイジング時代、あるいはEV用の重たい電動モーターをマウントする要求に応える時代では、従来の設計方法を白紙に戻し、プラットフォームとセットで運動性優先の姿勢でマウント方法の最適化を図る必要があるはずだ。

エンジン/変速機の回転軸上に左右2点、そこから遠い位置(必然的に下端になる)にトルク反力を受けるトルクロッドという配置がペンデュラムの基本。上部にもトルクロッドを配する方式は重量級エンジンに採用例が多い。液封マウントのようなデバイスに頼るのではなく、マウントそのものの役割をしっかりと認識した設計が求められるところだ。(FIGURE:NISSAN)
日産縦置きFR車の例。前側はエンジンブロックから左右にウデを張り出し、マウントを介してサスペンションメンバー上に固定。後方はトランスミッション左右をキャビンフロアのクロスメンバーに固定している。エンジン縦置きFRの場合、マウント方法はFFほど複雑にはならない。このままエンジンを前進させれば縦置きFFだが、その場合にも前側左右をしっかり押さえることが基本である。(FIGURE:NISSAN)
2009年にフルモデルチェンジしたスバル・レガシィのエンジンマウント。エンジン前端に1カ所、トランスミッション側に左右1カ所、合計3つのマウントを持つ。左右マウントは液封タイプ。水平対向がV型の変形だと考えれば、前側にも左右シリンダーヘッド近傍にマウントを配置したいが、そこはコストおよびエンジンルームのレイアウトとの兼ね合いになる。重量級エンジンだけに前側1点はつらいところだ。(FIGURE:SUBARU)
著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

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